- [著]Bertrand Russell
- カテゴリ:
- ペーパーバック (897頁)
- ISBN:
- 0671201581
- 発売元:
- Touchstone Books (1967/10/30)
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読む価値ある人間の歴史
書かれたのが第2次世界大戦中なので、専門家にとっては価値は低いと思いますが、一般の読者にとっては、人間がどのように世界を理解してきたかをたどる最も優れた本の1つといえます。優れているのはまず、知的な誠実さであり、ラッセルが正しいと思うことを正しい、わからないことはわからないという、自らの限界を率直に示して語ると言う点です。もちろん、ギリシャ語ラテン語をはじめ様々言語に幼い頃から親しみ古今の原書に通じた上での広い限界ではありますが。
また彼は哲学者にもその誠実さを重視し、その生き方と考えの差には鋭い批判を向けている。ショーペンハウエルはヘーゲルに対して、自らが建てた壮麗な建物のわきの掘っ立て小屋に住んでいる、と述べましたが、このような批判はラッセルもさまざまな哲学者に対して行っています。人が悪いことを理解していれば、悪いことを行うことはない、とソクラテスはいっていますが(プラトンをつうじて)、哲学者のこのような矛盾はみずからの理論の弱さも露呈することはラッセルは暗示しています。
高校生の頃からラッセルの英文に親しみましたが、この本がおそらくもっとも内容深いものと思います。時間を見つけながら2年ほどで読みましたが、読んで良かったと思います。ラッセルの英文のただ1つの欠点はユーモアに欠けることと思ってきましたが、ラッセルのユーモアはこのようなものなのか、と発見しました。カントの章で、ブリタニカの記事に話が及び「彼は(カント)生涯独身であったので、学問にかける若さを晩年までたもつことができた」と書いた筆者は、はたして独身者なのか妻帯なのか、という冗談を述べています。
ラッセルの英文は母国語を英語としないものにとってはお手本になるスタイルといえます。最近は英文法の重要性が低くなっているようですが、学校文法がそのまま応用できるのがラッセルの英文です。仮定法がきちんと使えていない現代の多くの英語のネイティブのまねを外国人がまねをすることはないでしょう。英語のライティングを学ぶという目的にもあう作品です。
偉大な哲学者による哲学史
ラッセルの哲学史については、哲学史の専門家からはいろんな批判がある。ラッセル自身は哲学史を専門としているわけではないし、各哲学者に対して、かなり主観的な批評をするから、哲学史の専門家の中には、良い印象を持たない人がいて当然だろう。
しかし私は、偉大な哲学者による、主観的な哲学史として、非常に優れた本だと考えている。
ラッセルの優れた点はいくつかある。
まず、彼は歴史の中で先見性を持っていた。第一次大戦に反対したが、結果的に壊滅的打撃を受けたドイツはナチスを生んでしまった。共産主義の持つ理想には惹かれたものの、限界を早く見抜き、共産主義反対を表明した。進歩的思想家としてサルトルたちが人気があった時期には、ラッセルを反動だと言う人も多かったが、時代は共産主義の限界を示した。しかし、ラッセルはベトナム戦争では、人道的見地から、共産主義と戦うアメリカを非難した。ベトナム戦争も、アメリカにとっては悪夢となった。
このように、書斎と大学を拠点にする哲学者とは全く違った、鋭い政治的視点を持っている。
思想を実践した人でもある。教育に関心を持てば学校を作り、政治批判をすれば立候補したり、老年になってもデモに参加した。
また、ラッセルは数理論理の世界では、歴史に残る大家である。ある分野において非常に優れた人の目というのは、やはり尊重すべきものである。
ラッセルの英文は明快である。読んでいて気持ちが良い。ただし、この本の中世哲学の部分は読みにくいため、飛ばし読みをした。古代と現代はしっかりと読んだ。
私は留学しようとする学生の何人かにこの本を薦めた。その中の一人はこの大部な本を持ち歩いて熱心に読んでいたが、今ロンドン大学で国際経済を学んでいる。
ノーベル文学賞受賞作!
哲学者の哲学史の本がノーベル文学賞を受賞しているのは意外な気がしますが、1950年に受賞しています。文学作品として傑出しているのかと言うと、そうではありません。
最近ではノーベル文学賞というと、優れた文学作品に対して与えられるものだと思われていますが、過去の歴史をひも解いてみると、選定には2つの基準があったことが分かります。一つは、現在ふつうに思われている、純粋に文学的に優れた作品、もう一つは、人類の発展、進歩に寄与した人道主義・進歩主義的な作品です。本書は当然、後者の基準による受賞です。これで、ベルグソンンもサルトルも受賞対象になっています。もっともサルトルは辞退しましたけどね。
内容はラッセルの視点、いわゆる20世紀、科学時代の観点から、ギリシャ時代からの西洋哲学の歴史をざっくり見直すというものです。科学的成果等による後知恵からの過去の批判等は、今読むと、あまりに楽観的で、ちょっとナイーブな気がします。でも20世紀、特に前半はそんな時代でした。ラッセルはそんな時代の哲学者です。そんな時代がうらやましいです。気持ちとしては、同時代として体験できなかった60年代の映画、音楽等に対する憧憬に似たものかもしれません。
