- [著]イェスペルセン
- [翻訳]安藤 貞雄
- カテゴリ:
- 文庫 (401頁)
- ISBN:
- 4003365739
- 発売元:
- 岩波書店 (2006/05)
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- ¥ 903 (税込)
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もちろん原著には敬意を表するが…
翻訳にあたった安藤氏の仕事ぶりがあてにならないため中間の評価とした。本来ならば星はひとつ、あるいはゼロとすべきかもしれない。
翻訳中の同氏から書面で問い合わせを受けたことがあるが、「なぜそんな簡単なことがわからないのか」とか「そんなことは辞書を見ればすぐにわかるではないか」と思われるような内容ばかりで驚いた。その後、他の方々も同氏から問い合わせを受けていること、そしてその内容は小生の場合と同じく極めて簡単なことばかりであることを聞き知った。さらに、丁寧にお教えして差し上げても「疑問が氷解しました」の一言で終わり。本書には何の謝辞もないし、上梓後にお送りいただくこともなかった。
安藤氏は岩波にコネがあるようだが、こんな(恐らく多くの)他人の褌で取った相撲を寄せ集めたような仕事は信用できない。原著、あるいはゲルマン語を縦横無尽に知っていた半田一郎先生の精緻な仕事を参照すべきだろう。
学習文法の土台をつくる緻密な見取り図
英文法は門外漢なので、イェスペルセンというと単に有名な文法学者といったイメージしかなかったが、本書を読むとたいへんすぐれた英語教育者でもあったことがうかがえた。
本書(1924)は、1909年から1910年のコロンビア大学での連続講義を原形に、『言語の論理』(1913)を経て15年をかけ書かれたものだという(訳者・安藤氏の解説より)。上巻は品詞論からネクサスの導入部までが、ラテン語や他のヨーロッパ語の比較も一部交えて解説される。本書で最も特筆すべきは、英文法を熟知し、イェスペルセンを熟知し、英語を熟知した安藤貞雄氏の訳のわかりやすさである。
本書の特徴を自分流に定義するなら、「学習文法の土台を支える原理を、なるべく英語の実態に合わせて根拠とともに丁寧にルール作りをし、定義した本」だとしたい。いわば、完成した文法書の設計図や見取り図のような存在である。
驚いたことは、そこで導き出される考え方の大部分が、ほとんど日本の文法書でしか勉強したことがない私にとって初見の情報ではなかったことだ。これは、イェスペルセンが作りあげた英文法の考え方が、日本における学習文法の根幹を形作っていることの何よりの証左ではないだろうか。いま私たちが当たり前に考えている文法ルールの多くが、この巨人の格闘によって生まれていることを、本書では目の当たりにできる。
本書で貫かれているのは「合理性」である。それは、英語教育者としてのイェスペルセンが、英語学習者のために効率の良い文法を作りあげようとした情熱がもたらしたものではないだろうか(日本語教育で言えばたとえば寺村秀夫的な存在なのかもしれない)。その思想は、江川泰一郎や訳者の安藤氏といった緻密で役に立つ学習文法を作った文法学者のみならず、伊藤和夫や山口俊治といった大学受験英語における「読むための英語法」を完成させた者へも有形無形に強い影響を与えているように感じる。
本書の内容はほとんど古くなっていない。ただし、アカデミックな文法論というより、学習文法のおける文法論を知りたい人は時間があるときに一読してもよいと思う。私も時間を見つけ、続けて読んでいきたいと思う。一言だけ苦言を言うと、索引をつけてほしかった。
ヒューマニズム文法登場
学生時代から、Jespersenの代表作『A Modern English Grammar(全7巻)』を何度も読破してきた小生ですが、まだまだ理解できずにいる部分がたくさんあり、Jespersenには多少の心理的距離感がありました。『The Philosophyof Grammar』の、この訳本は、あっという間に、Jespersen と小生の精神的距離を縮めてくれました。同訳本と半田一郎氏による訳本(絶版)を比較しながら読むのもまた楽しい営為です。とにかく、Jespersen の人間性に触れることができる名訳であります。かつての生成意味論の旗手、故J.D.McCawleyも同書を絶賛したように生成意味論的発想も窺え、理系の思考法を必要とする生成文法(ミニマリズム)に疲れたときに読むとリラックスできます。同訳本は、中、下巻も出ています。最近、文庫はすぐに絶版になるので、今、興味なくとも、購入しておいたほうが良いのでは?
今こそ再評価されるべき、英文法の大家の代表作
英文法の世界的権威であるイェスペルセンの代表作を、日本における英語学第一人者である安藤貞雄先生が訳した、贅沢な文庫である。
すでに古典の地位を確立しているものだが、あとがきによると、安藤氏は、近年のチョムスキー理論の高度に抽象的・理論的にすぎる展開からやや距離をおき、穏健な言語事実にねざした研究に意義を見出しているようだ。
訳は非常に読みすく、ほぼ問題はない。注釈も近年の理論や学説を踏まえたもので、非常に現代の我々の研究にも刺激的である。特に上巻の白眉は品詞及びネクサスであろう。ネクサスが理解できれば、一気に英語力は上達する。
英語学、英語教育に携わる者は必読である。
