ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)

  • [著]高木 徹

カテゴリ:
文庫 (405頁)
ISBN:
4062750961
発売元:
講談社 (2005/06/15)
価格:
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17,778 位
評価: 4.5
2008
09/13
Sat

報道ジャーナリズムの恐ろしさが良くわかる

[No.37] posted by 浪速のスライサー

民族紛争には、常に当事者にとっての正義は(あくまで当事者からの視点ではあるが)絶対
善として存在するが、それは対立者にとっては悪魔的に悪である。だからこそ問題の軟着陸
が難しく、問題が泥沼化してしまうことが多い。ただ、もしある一方の視点だけが報道され、
対立者の視点・主張が一切シャットダウンされてしまったとしたら----

本書ではその「もし」が現実に起こり、セルビアが国際的な「ならず者」へと転落していっ
た舞台裏を克明に描いている。こうした事例はこのユーゴ紛争だけでなく、我々の日常接して
いる報道にも頻繁に見られる(例えば小泉首相時代、対立者を抵抗勢力と決めつけた報道等)
そういった意味で新聞やTVの報道を鵜呑みにしてはいけない事を本書から学びました。

何よりも、本書を読んでボスニアに絶対的な善など無いのだと気付かされます。まだ著作数の
少ない作家ですが、今後要チェックと思いました。

2007
12/29
Sat

プロの仕事

[No.36] posted by そんちん

NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」を思い出しました。
ルーダー・フィン社のジム=ハーフ氏らは、徹底的に、クライアントの利益のためにPR会社としてプロの仕事をしたのだと思います。24時間体制は当たり前。
その仕事ぶりが、PRの素人の失敗(セルビア政府、ユーゴスラビア連邦(当時))と比較され、見事に描かれています。
最後、クライアントとの決別がフィーを巡ってのことのようで、そのあたりも生々しい話しでした。

2007
12/17
Mon

受け手とメディアの怠慢

100.0% (1 / 1)
[No.35] posted by kagekiyo

本書は90年代初頭のボスニア紛争において、
アメリカの一企業がいかに巧みに情報を操作し、
国際政治を動かしたかを回顧するものです。
映像を手がけるプロでもある著者の文章は、
臨場感や鮮やかさに満ちていて読み応えがあります。

弱小国家ボスニア・ヘルツェゴビナの外相シライジッチは、
単身で乗り込んだワシントンDCにおいて、
PR会社のやり手、ハーフと出会い契約を締結する。
そこから、同国の怒涛の情報戦略が展開され、
ついには強国ユーゴスラビア連邦を国連脱退に追い詰める。
その過程では、主要国首脳や国際世論を味方につける様々な手法が用いられる反面、
手強い相手方の失策や幸運も作用していきます。

本書を通じて率直に感じたのは、新製品やサービスならともかく、
人権や平和を扱う国際政治の分野にあって、
PR活動が真実を覆い隠したり、趨勢を左右するのは、
やはり邪道だなということです。
しかし、著者同様、それがもはや冷徹な現実であることは認めざるを得ません。
日本政府や要人の貧弱なPR活動が、
我々庶民の生活を窮地に追いやらないことを祈るのみです。

同時に浮かび上がるのは、
本書におけるようなPR企業が成果を上げてしまう主な要因は、
我々情報の受け手のメディアリテラシーの欠如、
そして情報を媒介するメディアの怠慢なのでは、ということではないでしょうか。
すなわち、メディアがPR企業のお膳立てに乗らず、
己の功名心を少し抑えて、独自取材の努力をしてみるとか、
我々が複眼的な視点で情報を吟味することが欠けているからこそ、
PR企業の暗躍を許してしまうのではないかと思えました。

2007
09/19
Wed

衝撃でした。

50.0% (2 / 4)
[No.34] posted by sakomi

いわゆる“情報戦”

その役目をまさか、民間企業が果たしている事が有るなんて・・・。
衝撃でした。

新聞、テレビ、あらゆるメディアを見る目が変わります。

社会派ノンフィクションですが、
エンターテイメント的な読みモノとしての魅力もアリ。


2007
08/09
Thu

倫理観を押さえて読もう

71.4% (10 / 14)
[No.33] posted by shibchin

ボスニア紛争でムスリム人(この言い方も変だけど)政府のメディア対策を一手に引き受けた広告代理店チームの行動を追ったドキュメントだ。彼らの活躍で、セルビア人=加害者、ムスリム人=被害者と言う構図が構築され、流布され、信じられ、そして、反対できないドグマへと仕立て上げられていく道筋が克明に追われている。上手なメディア戦略というものがどういうものか、目にもの見せられる思いである。わが国のあらゆる組織のトップに立つ人は必読の本だ。

ひとつすごいなあと思ったのは、広告代理店チームが詳細な取材に応じていることだ。彼らは悪びれることなく、クライアントの最大の利益を守ったと言う。そもそも、何をしたかの詳細なレポートを業界団体に提出して賞をもらっているのだ。そして、その賞によって最も有力な広告代理店の仲間入りをしている。他民族のパッチワークの中で、正義(そうブッシュの好きな正義)とは相対的なもので、大衆やメディアが指し示すに過ぎないことを彼らは深く理解している。かの国で、学校教育でディベートが重視されるのも当然だし、卑近な事象で争うと弁護士社会となる。日本人は、価値観の似通った中で暮らしているので、そのような考えには嫌悪感を覚えるが、一歩外に出れば、そう言う世界が広がっているのだ。

セルビアが悪の権化に祭り上げられた経緯は、戦前、わが国が悪の権化に祭り上げられる経緯と重なるものがある。ハルノート、リメンバーパールハーバー、国際連盟脱退、にみごとに対応するものをボスニア戦争で見つけることが出来るのは驚くばかりだ。第2次大戦は、戦力、経済力、云々の前に、メディア戦略でまず負けていたわけだ。

現在の牛肉輸入問題にしろ靖国問題にしろ、私は結論はどちらでも良いように思う。ただし、国際世論(本書を読む限りそれは実質的にはアメリカの世論)をいかに味方に付けるか、そのためにどういう手を打つかについてよほど腰を据えて考えていないと、あっという間にセルビアにされてしまうのだ。

2007
01/21
Sun

イメージの管理

62.5% (10 / 16)
[No.32] posted by 文字読み

国際社会を動かす「情報」の重要性について、ボスニア紛争という特異事例をよく調べたうえで分かりやすく記述していて、内容的にはまったく異論がない。我々が生きているのが現実ではなく情報=イメージの世界であることがよくわかる。湾岸戦争時の「デッチアゲ」の段階から、嘘ではなく一側面を強調することによる情報操作へ、という流れもそのとおりだろう。
しかし、プロフェッショナルな広告代理店の仕事を綿密に追いかけ、日本社会の情報管理を嘆く姿勢から浮かび上がってくるのは、情報=イメージをよりよく管理しましょう、うまく主張しましょう、という姿勢ではないか。これではどこかの政府が近頃むやみに「主張」していることと同じだ(それだけ本書の影響力が強かったのか)。内容はともかく、とにかく主張するだけ。。。
情報=イメージをいかに管理するか(どのように見せるか)という管理側の発想よりも、そのような擬態をもった情報=イメージをいかに見るか、という受け手側の発想が重要なのだろうと考えさせられる本だった。

2006
08/18
Fri

社会人としての「実用書」

72.2% (26 / 36)
[No.31] posted by noritoku76

以前より読もうと思っていたが、結局文庫化されるまで読まずじまい。何となくタイトルと聞こえてくる評判から変な偏見をもっていたからだ。PR会社がボスニア紛争を牛耳ったことを糾弾している安易な批判本ではないか、と。

しかし、この本はそういう単純な図式から遠く離れている。ボスニア紛争において、ルーダー・フィン社のジム・ハーフを中心としたメンバーが、明確なPR戦略と実行力で、如何にボスニア=善、セルビア=悪という明快な図式に国際世論を誘導していったかが、綿密な取材をベースに、しかも非常にわかり易い文体で描かれている。

ここで重要なのは、ジム・ハーフ達が戦争をビジネス化したこと(と、それへの批判)ではない。この本で面白いのは、ジム達が情報の本質を鋭く理解しており、またそれを如何に整理し他者に伝えていくのか、そのノウハウをプロフェッショナルとして見事に手法化していることだ。つまり、事は戦争に限らない。ビジネスでも政治でも、そして学問でも、ある情報をどう整理し如何に他者に届かせるのか、というのが決定的に重要であることをジムたちは見事に喝破している。そして、著者もそのことを十分理解しているが故に、この本ではジム達の手法に対する批判は殆ど見られない。その代わり、著者は丹念な取材で、ジム達のとった戦略、手法、その成否をつまびらかにしていく。よって、この本は単なる国際紛争のルポにとどまらない。例えば僕にとって言えば、いかに自分が日頃のビジネスで情報に対する感度が低いか思い知らされた。この本は、広く情報を扱う人たち、つまり社会人として働いている殆ど全ての人にとって有用な「実用書」と言えるのではないだろうか。

2006
08/18
Fri

戦争と企業 モスレム

75.0% (12 / 16)
[No.30] posted by YUTA

ドイツワールドカップが終わり、急遽日本代表監督として決定したオシム監督の故郷として、今フーチャーされているポスニア。そして1990年代前半に勃発したボスニア独立によるセルビアとの民族紛争。

客観的にこの戦争を見ればどっちの民族つまりモスレム人とセルビア人はどちらも血で血を洗うような殺し合いを繰り広げ、その戦場には正義などの言葉は存在しなかった。

しかしそこにPR企業がフィルターを通し、『エスニック・クレンジング』(民族洗浄)などのPR案を駆使して、全世界の人々を味方につけてセルビアの国際的抹殺を実行した。

僕はこの作品をはじめて読んだとき衝撃を受けました。ボスニア紛争自体そんなに知らなかったのですが、この『戦争広告代理店』というタイトルが気になり読んでみたのですが、人の思惑はある一部の機関によりコントロールされて、それによった結果が出る。その象徴としてこの作品が存在するのではないのでしょうか。

2006
04/19
Wed

一般的な日本人(自分)には衝撃的な作品。しかし後味は非常に悪い

75.0% (33 / 44)
[No.29] posted by Taro

衝撃的な内容の力作であるのは間違いない。PR会社のこういった仕事も現代社会では否定できないのだとも思う。しかし、読後感は非常に悪い。

主人公ジム・ハーフが属するPR会社では活動の倫理的問題に非常に慎重であり、例として国内の政党をクライアントとするのを禁じていることが挙げられているのだが、その理由をCEOは「社内には個人のレベルで民主党の支持者もいるだろう。その彼らが仕事とはいえ違う政党のためにビジネスをしなければならないとしたら、それは私の流儀ではないのだ」と説明する。そんなに偉そうに言うことかと思う。

彼らは、ボスニア内戦はセルビアに非がありボスニアからの仕事の依頼は倫理に反しないとして引き受ける。しかし、彼らはその前年ユーゴから独立したクロアチアから依頼された仕事をしているのである。情報のプロであるなら、悪いのはセルビアだけでないのはわかっていただろう。百歩譲ってその時はわからなかったとしても、その後次々に現れた彼らにとって都合の悪い事実に対しての見事なまでの対応を読むと、彼らに倫理は存在しない。そこにあるのは、クライアントの依頼を完璧にこなす有能なビジネスマンの姿である。それは、ラストシーンにはっきりと現れている。

著者は、彼が「やらせ」には手を染めず、知り得た情報を見事に使いこなしたと述べている。確かにそうかもしれない。しかし、メディアがセルビアが決定的に不利な状況に追い込まれ、後に事実誤認が発覚した情報を提供している。そして、PR会社の戦略に乗せられるのもメディアである。NHKのディレクターでもある著者はこれらについて触れようとしない。日本の情報管理体制を憂うる前に考えることがあるだろうと言いたくなる。

この戦争で旧ユーゴの庶民がどうなったのかを知りたい方は「木村元彦」の一連の作品を読んで欲しい。メディアの罪がよく理解できるはずである。

2006
04/15
Sat

秀逸なジャーナリズム書。

40.0% (6 / 15)
[No.28] posted by doncorleone

進歩的知識人の方には是非見習ってほしい、最高レベルのジャーナリズム書だと感じた。ミロシェビッチに少し同情してしまいそうです。
そもそも我々は善悪を決める価値観は、宗教や道徳心、倫理観ではなく、"太いものに巻かれろ"的な共同意識なのではないかと思う。だからこそ、この本で書かれているようなPR会社による情報戦略に踊らされ、それが世論として政府を動かしてしまうのだろう。PR会社は人間の精神の本質的な部分を非常によくついている。
我々が未熟である限り、このようなPR会社は存在し続けるであろうし、その情報戦略によって、いわゆる正しいものを見つけることは出来ないのかもしれない。
戦争の実体もさることながら、日常的にニュースに接している我々の精神態度について、深く考えさせられた。


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