- [著]魚住 昭
- カテゴリ:
- 文庫 (435頁)
- ISBN:
- 4062753901
- 発売元:
- 講談社 (2006/05/16)
- 価格:
- ¥ 730 (税込)
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麻生太郎への一言がしびれる
魚住昭の『権力』三部作のひとつ。ナベツネ、瀬島龍三、そしてこの人。野中もまた、前の二人と同様権力志向が強い人間であるが、どちらかといえば前の二人は弱者を無視してふみつぶしていくタイプである。基本的に、権力闘争というのは「上」を見ながら行われるゲームであって、そこで「下」のことを本当に考えている人というのは案外少ないのだろうし、権力者にはやっぱりナベツネみたいな人が多いんだろう。
一方、野中の権力への意志は、弱者を代表し、擁護するところから来ている(少なくとも魚住はそういう風に三者を描き分けている)。そのやり口はともかく、野中を見直した。こういう政治家がいてもいいよね。特に、麻生太郎と対峙する以下のシーンは必読。このシーンだけでも読む価値あり。2003年9月、野中が引退するときの発言。
<「総務会長、この発言は私の最後の発言と肝に銘じて申し上げます」と断って、山崎拓の女性スキャンダルに触れた後で、政調会長の麻生のほうに顔を向けた。総務大臣に予定されておる麻生政調会長。あなたは大勇会の会合で、『野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ』とおっしゃった。そのことを、私は大勇会出身の三人のメンバーに確認しました。君のような人間がわが党の政策をやり、これから大臣ポストについていく。こんなことで人権啓発なんてできようはずがないんだ。私は絶対に許さん!」
野中の激しい言葉に総務会の空気は凍りついた。麻生は何も答えず、顔を真っ赤にしてうつむいたままだった。>
しびれる。
同和利権と権力
野中広務についてのイメージは、部落の出身で人権擁護法案に賛成している、小泉政権では抵抗勢力扱いを受けていた、というくらいのもので、解放同盟のカネと暴力をバックにのし上がった権謀術数の政治家くらいの認識しかなかった。失脚後に週刊誌で、「同和利権の排除に命をかける」と発言していたのを見て目を疑ったが、断末魔の冗談かと思っていた。
しかし、この本に描かれる野中は、部落出身の立場を最大限に利用したのは確かだが、一部の同和議員のようにカネと暴力の同和システムの維持を目的に議員をやっている者とは大きく違う。
何が本当かは分からないが、ただの同和議員とは、信念と能力において大きく違ったのは間違いないと合点してみる。
最後に、どうして部落出身を暴き立てて家族を苦しめるのか、という野中の批判に筆者が「これが私の業なのです」と答えるくだりは、にわかにマスコミ人の自己顕示欲が出ていて、笑ってしまった。
日本政界における"野武士"、野中広務氏の人物像に迫る渾身のドキュメンタリー
これまでは、マスコミで報道されてきた『影の総理』・『抵抗勢力』としての野中氏しか知らなかったわけですが、本書を読んで野中氏に対するイメージが変わりました。町議員〜町長〜京都府議員〜京都府副知事〜国会議員へと政界の階段を一歩一歩登り、総裁の座を目前にしながらも身を引かざるを得なかった"野武士・野中氏"の姿を、淡々とした筆致で迫ります。"調停役(フィクサー)"としての野中氏の半生と共に、戦後日本の政治の"表と裏"が非常に良く分かります。(特に蜷川府政の裏側、「非自民連立」の追い込み、「自社さ」〜「自自公」の連立政権実現の裏側、「加藤の乱」鎮圧の経緯は読み応えアリ) 「本当にここまで書いてしまって良いの?」という内容の連続で、衝撃的でした。「政治の裏側で実は色々とあるのね」ということを知ってしまうと、今回(2007年9月)の安倍総理突然の辞任〜麻生氏立候補表明〜一夜にして福田氏優位〜福田総理誕生という政治の流れも、裏できっと色々とあったんだろうなぁ、と思ったりしましたね。(「情報戦」「取引」があったのかな...?)
自らの出自が故に弱者に優しい一面、弱者の甘えには厳しい野中氏。本書から窺い知れる野中氏の"アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)"への姿勢は、コンドリーザ・ライス氏(現アメリカ国務長官)のそれと共通するものがありますね。実際に差別を直面し、自助努力で乗り越えてきた人でないと発せられない言葉の重みが其処にあります。「"差別"も"逆差別"もない社会とは?」という命題について再考させられました。自助努力を促す社会/自助努力する人が報われる社会の実現って、やっぱり青臭い理想論なのかな。(でもやっぱり、信じたいですね...) そんなことも思ったりしました。現代政治・社会の"裏側"について、色々と考えさせられる一冊です。
野中広務がわかる
政治家野中広務、人間野中広務がよくわかる本です。地方政界から、権力の中枢まで、上り詰めたたたき上げの政治家の実像がわかります。特に、その出自と政治信条とがよくわかります。日本の政治の世界をかいま見るのにもとても良い本だと思います。硬い本ではありますが、とても読み応えがあり、面白い本です。
今の時期この本を読んで・・・
「おなかが痛いの〜」と言って逃げ出したボンボン前首相とのなんと対照的なこと。
泥をぶることも厭わず、清濁併せ呑む腰の据わった政治家がやっぱり必要なんだと言うことをあらためて感じました。現役時代はマスコミに乗せられてあまり良い印象はありませんでしたが、政界引退時の引き際の良さに何となく気品を感じ、この本が出たとき早速読んでみようと思いました。
小泉ワイドショー政治に?を感じ始めている今、政治って本当にワイドショーで良いのか?芸能界とは違うんだぞと考えさせられる一冊だと思います。
悪夢のように面白い
後書きで講談社は訴えられたら負けるでしょうと佐藤優氏が言っているが、
多分負けるんだろうなあという切り込みっぷり。
どこまで真実なのか。これは事実なのか。と思わざるを得ない赤裸々な描写が、
しかし感情を抑えた切れのよい筆致でテンポ良く綴られる。
すこしアクが強すぎて一気に通読はできなかった。
これを読むと、今回の政変についても、いろいろ思うところがある。
野中氏の、というか政治家一般の評価とはえてして難しいのだろう。
私設秘書の給料流用すれば、事務所運営にしか使ってなくてもガンガン叩くマスコミ&世論と実態の乖離を非常に感じる。
どちらがより歪んでいるのか。まだ考えがまとまらない。
とにかく、悪夢のように面白かった。
佐藤氏との対談も良かった。
後は、あてられ過ぎないようにしなきゃいかん。そう思う。
優れたノンフィクション
野中さんはものすごい悪代官顔で、何か企んでいる感バリバリの人物だが、今回の参院選での弱々しい表情の候補者をみていると、なんだかあの悪代官顔が懐かしくもなってくる。差別・偏見がもたらした、一人の人間の寂しい最後、といったらかっこつけすぎだろうか。優れたノンフィクションだと思うが、最後の佐藤優と著者の褒めあいっこがビミョウ。
著者もまた、野中に魅惑された一人でしょう、明らかに
文庫版で新たに収められた著者と佐藤優との対談で、佐藤は先行する魚住の2つの評伝(瀬島龍三・渡邉恒雄)について「役割を終えていると、そういう前提で全体を整理したわけですよね」(p411)と指摘した上で、今回の野中伝については「どういう違いがありました?」と問いかけている。著者も佐藤も明確に回答を与えていないけれど、やはり、前2作と同様だと私は思う。
確かに著者は野中の「弱者へのやさしさ」を強調しているが、他方で「独自の国家戦略を持たず、与えられた役割に忠実すぎる野中の弱点」(p357)を指摘し、「やさしさ」についても沖縄の基地問題にからめて「野中が目指したのはあくまでも沖縄の痛みをやわらげることであって、痛みそのものを除去することではない」(p357)と分析。野中が暗躍してまとめた自自連立・自自公連立については、ジェラルド・カーティスの言葉を借りて「それ以来、日本の政治は後退してしまった」(p377)と評価。
1999年、野中は加藤紘一の乱をアメとムチで鎮圧したものの、自民党の旧体質に対する国民の失望と怒りを招き小泉フィーバーを招来してしまう。「野中は自らの墓穴を掘ったと言うべきだろう」(p383)という著者の言葉は、厳しい。
本書は野中の出自をめぐる記述に始まり、2003年9月の野中最後の自民党総務会における、麻生太郎の差別発言に対する痛烈な抗議の場面で閉じられる。日本の最高権力一歩手前まで達しながら、自ら身を引かざるを得なかった男の、まさに「差別と権力」の物語。野中の冷酷とやさしさ、辣腕と限界を出自に収斂させすぎる疑問も感じるが、とにかく読ませることは間違いない。
凄い人物評伝
ある種「悪の政治家」の代表格である野中広務。彼の人生を記す渾身のノンフィクション。小泉改革の抵抗勢力の代表と報道され、引退を余儀なくされた彼。しかしながら野中の政治手腕は弱者へのいたわりが根底に流れている。それは彼自身の生き方から湧き出す、やさしさなのであろう。そのやさしさを知ることが出来る野中であるから、その行動、言動にキレがあるのであろう。そのキレに対して、世間やマスコミは冷酷との印を押すしかなかったのであろう。本当はその中にはあふれ出す優しさがあるのである。その優しさを冷静な視線で描ききった作者に拍手をお送りしたい。
謀略を尽くす一方で弱者に優しい鵺のような政治家の評伝
野中広務;不思議な政治家だと思っていました。田舎の町長から府議会議員へ、そして50歳半ばで中央政界に来たら、わずか10年余で権力の中枢へ上り詰め、小泉政権からは抵抗勢力の代表として引退を余儀なくされた男。 ある時は保守、ある時は親共産党知事の懐刀。 そして誰よりも役人と同僚政治家に恐れられた男。反面、弱者には優しい男。このような男の真相に、気鋭のジャーナリストが挑んだ力作です。
野中は言う、「君が書いたことで私の家族がどれだけ辛い思いをしているか」。 それに答えて著者が言う。「誠心誠意書きました。これが私の業なのです」。 野中の育った環境、時代背景、政治的闘争歴が彼の政治家としてのありようを規定したことが克明に語られています。 現在進行形の政治の姿を知るまたとない本といえるでしょう。 また、文庫版は、著者と異彩の元外務官僚佐藤優の対談と佐高信の解説がついており、単体でも読ませる濃い内容となっていました。現代政治とどろどろした地方風土を理解する上でまたとない本としてお奨めです。
