- [著]本田 靖春
- カテゴリ:
- 文庫 (392頁)
- ISBN:
- 4062759063
- 発売元:
- 講談社 (2007/11)
- 価格:
- ¥ 730 (税込)
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読んでよかった
本田靖春は「誘拐」しか読んだことがなかった。
それは素晴らしい作品ではあったが、読売新聞の記者という経歴が
引っかかっていた。
読売新聞が嫌いで、その嫌いな新聞の記者と作品のギャップが埋められなかった。
この本を読んで、本田靖春氏が何を思い何を求めたのか、
どうあろうとしたのかが、痛くわかった。
この本を読んで、読売を突き抜けた本田氏自身がよく見えてきた。
感想は、読んでよかった。読んでよかった。
自らの足跡への誇り
フリージャーナリストであった本田靖春氏が、幼少期からおもに読売新聞記者時代までの前半生を綴った自伝。
昭和30年代のはじめから後半までの、たかだか10年たらずの期間の記述が内容の多くを占めていることに驚いてしまうくらい、本書は劇的なエピソードに満ちている。最終的には不満とともに退社することになるにせよ、本田氏がこの時期、いかに密度の濃い時間を過ごし、また多くを考えさせられていたかがわかる。とくに、肝炎感染の危険を冒しながらも売血の現場をあぶり出し、大々的な献血推進運動につなげた「黄色い血キャンペーン」は圧巻だ。
どのエピソードにおいても、軸となるのは本田氏と他人との擦れ合い、人間模様である。「古き良き」社会部の面々との交流、憎き買血業者との格闘、あるいは「虫が好かない」地方支局長との軋轢…。人物描写はときに露骨なまでに主観的だが、躍動感あふれる群像劇として文句なしに面白く、つい引き込まれてしまう。
難をあげれば、自慢話が多少鼻につくかなと思う。しかしそこはあくまで「おじいさんの武勇伝」、大目にみてあげましょう。第一、彼の「人の善意と無限の可能性」への信頼を貫き通した生涯は、十分、自ら誇るに値するものだろう。
自立した職業人の草分け
読売新聞社会部記者を経てノンフィクションの草分け的存在の本田靖春しが、
生涯最後に自身を題材とした自伝的作品。肝臓癌におかされ、糖尿病合併による
壊疽から両足を切断されながら、死の目前まで書き続けた自伝には魂の叫びとも
言える迫力を感じます。
著者は自らを拗ね物と言うだけあって、確かに偏屈なところがあり組織では、
はっきりいって浮いた存在になっていました。そんな著者を見込んだ上司も少なか
らずおり、記者としての実績も積んできたにもかかわらず新聞社を退職したことは、
私の身近な誰かを思わせます。そう、今ではそう珍しくないフリーエージェント
宣言を昭和46年時点でなしえたのは、彼が自立した職業人だったことを物語っています。
もし会社人としてのキャリアチェンジを考えるのであれば、彼くらいの気概もって
退職したいものです。(下巻に続く)
真のジャーナリストの姿がここにある
「拗ね者」というのは、著者の一種の「照れ」のようなものだろう。
「権力」と真っ向から対峙することこそジャーナリズムであると信じ、
その通りの活動をしてきた作者の、まっすぐな姿勢が感じられて
襟を正して読もうという気にさせる。
やや高価だった単行本(しかし私は迷わず買った)の待望の文庫版である。
「反権力」=「サヨク」という安易な構図が出来上がりさえつつあるいま、
左翼とか右翼とかではなく、正しいと信じたことを正しいと主張する
ジャーナリズムのあり方を教えてくれる一冊だ。
亡くなって3年。まったく惜しい人を亡くしたと思う。
