火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 (ハヤカワ文庫NF)

  • [著]オリヴァー サックス
  • [原著]Oliver Sacks
  • [翻訳]吉田 利子

カテゴリ:
文庫 (409頁)
ISBN:
415050251X
発売元:
早川書房 (2001/04)
価格:
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33,470 位
評価: 4.5
2008
03/25
Tue

小説でさえあり得ないような内容こそ現実

66.7% (4 / 6)
[No.17] posted by MM

映画化された『レナードの朝』の著者であるオリバー・サックスの著書。彼が実際にであった7人の患者についてのドキュメントを、数十ページごとの短編小説集のような構成で紹介している。自身を『火星の人類学者のよう』と表現し、一般社会になじめない自閉症の患者のほか、ある日突然色覚を失った画家やサヴァン症候群の少年、生来盲目だった患者がある日手術によって視力が回復した結果の顛末などが紹介されている。約400ページの分量で、高校生以上であれば数時間〜数日で読破可能。

おそらく、この内容を小説だといって読ませても、設定の荒唐無稽さによって誰も注目しないであろう。ところが、小説でさえあり得ないような展開が、実際に存在する人物による現実なのである。しかも、そのような原因がほんのわずかな障害や異常によって発生し、人の社会生活がこれほど不思議なものに変容することに驚く。さらには、一部の機能を代償に超人的な能力を獲得する脳のしくみにも驚く反面、失った機能によって普通の社会生活を送ることができなくなる苦悩についても考えさせられる。後天的に視力を回復した者の多くは視覚情報になじめずに精神に異常を来す者が多く、短命となると言う現象に、我々があたりまえと思って享受している生活のありがたみを再認識させられる。

難点は著者自身が述べているように、ドキュメンタリーでありながらも小説のような語り口であるために、脚色が加えられているのではないかと感じてしまう点。また、分量の割に脳科学的考証が少なく、かつ不明な点が多いとしているために、何故そうなるのかという読者の欲求が満たされない点。

本書は、ラマチャンドラン氏の『脳のなかの幽霊』や池谷裕二氏の脳科学についての書と併読することで、より面白さが増すはずである。上記問題点を考慮して星4つのでき。

2007
04/10
Tue

正常な人間でいられる方が不思議。

100.0% (2 / 2)
[No.16] posted by mayumi

へェー人間てスゲーヘンテコと思い知らされたのは、このオリバー・サックス先生の著作の数々です。特にこの中の「最後のヒッピー」には、衝撃的な感動を受けました。「妻を帽子とまちがえた男」とロバート・デ・ニーロ主演で映画にもなった「レナードの朝」も印象的でした。当分の間、L・ドーパミンと言う言葉が耳から離れませんでした。

2007
02/18
Sun

自閉症を2つのまなざしから眺めると

100.0% (2 / 2)
[No.15] posted by Fumi

脳神経科医である著者が、医学的知識を背景とした客観的なまなざしと、人間的な温かいまなざしの両方をもって描く患者さん達の様子。「ある種の健忘の患者さんは、新しい出来事を記憶できない」「自閉症の患者さんは相手に愛着を示したり、感情を共有することが難しい」と知識としては知っていても、やっぱり実際の患者さん達と人間として触れ合うと、「そんなことない。こんな経験を忘れるわけないんじゃないか」「今、彼と気持ちを共有しているじゃないか。彼は僕のこと覚えているじゃないか」という気持ちになるし、そうであって欲しいと著者のように願うのが自然だと思います。頭では分かっていても、でも、という気持ち。それは彼らと接している人なら誰でも感じる気持ちだと思いますし、そういう気持ちがなくなってしまってはいけないような、そんな風に感じます。著者の冷静で知的な描写と、優しい気持ちがとても良いバランスを保っている素晴らしい本だと思います。

また、この本に登場する患者さん達は高次脳機能障害の方々がメインかと思っていましたが、実際にはサヴァン症候群(「レインマン」のような、突出した才能をもつ自閉症や知的障がい児・者)と高機能自閉症の患者さんについても最後の2章で触れられています。特に高機能自閉症の患者さんは「我、自閉症に生まれて」のテンプル・グランディンであり、彼女の著書によってその内的世界を知った後に、この著者が外側から見たテンプル・グランディンの様子を知ることが出来るのは非常に興味深いことでした。また、著者は小児精神科医ではないので、発達障がいの捉え方がまた一味違い、それも勉強になりました。自閉症や発達障がいに関心がある方にも、ぜひお勧めしたい本です。

2007
02/05
Mon

障害は幸福の終わりではない

75.0% (3 / 4)
[No.14] posted by ねこうさぎ

トゥレット症候群の整形外科医、自閉症の天才画家少年、同じく自閉症の動物学者(表題の火星の人類学者である)が抜群におもしろい。

脳科学の本を読み始めた頃は、脳の複雑さに驚いた。
次いで、それほどまでに脳の働きが複雑なら、正常に機能するする方が奇跡で、いつ壊れても不思議はないのでと思ったら、なんだか怖くなった。

本書を読んで、脳の適応力、柔軟性の強さに感動した。

盲人の脳では、使われていない視覚の領域が聴覚や触覚の領域に活動を広げ、視覚以外の五感も担当してしまう。

自閉症児にはある種の個性、自尊心が存在する。

障害は終わりでも絶望でもない。
そんな勇気をこの本からもらいました。

2006
06/22
Thu

自分に巣食う「常識」を問い直す

81.8% (9 / 11)
[No.13] posted by 空色の缶詰

科学は、不確定な現象から「普遍的なシナリオ」を抽出・固定していく性質をもつ。一方で、個人個人が見ている現実は、あらゆる面において普遍化・固定化を寄せ付けない唯一無二のシナリオを持つ。

その点において、個人の見ている世界が「正常か異常か」を定量しようとする「科学的な」アプローチには、おのずと限界と矛盾が生じてくる。そもそも「正常と異常」という概念そのものが、意外に曖昧で脆いものなのではないか…

そんなことを、本当に深く考えさせられる。
一気に引き込まれ、頁をめくり続けた。読み終わって気づいてみると、自分の世界の見方、現実の見方、人間の見方を、根本から問い直すきっかけとなった本だった。

本気でお薦めです!

2005
10/20
Thu

読むべし

44.4% (4 / 9)
[No.12] posted by 渉外

この本読むと、何が異常で何が正常なのかわからなくなるし、幸福とは、何かと、考えざるを、得ない。大いなる、問題提起の書。

2005
07/06
Wed

大いなる個性

80.0% (4 / 5)
[No.11] posted by いっちーご

~ 表題の”火星の人類学者”は最終章に登場する自閉症の動物学者の自己を表現した言葉です。サックス氏は単に世界的にもめずらしい驚異の症例を紹介したのではなく、理解しようとして最大限の努力をし、愛情を持って接したことがわかりました。また健常な人たちが、色がわかったら、ものが見えたら、障害が消えたらどんなにすばらしいだろうと考えていること~~が、必ずしもその人の大きな喜びとはならないことも知りました。脳神経科医の書いた本ですので少し難しさもありますが、巻頭では本書に登場する人たちの作品がカラーで紹介されていて理解の手助けとなると思います。~

2005
04/27
Wed

素晴らしいです。

83.3% (5 / 6)
[No.10]

 7人の奇妙な(奇妙というか、我々にとっては殆ど奇異とでも言える)
「患者」との人間的な関係を構築した上で、彼らの核心へと迫ってゆく。
そこで分かるのは、彼らが私たちとは遥かに隔てられてた存在なのでは
なく、彼らもまた、同じ社会で生きている存在であること、そして、
さらに重要なことは、彼らを見る私たちの、その特定のフレーム自体を
改めて考えさせるような、サックスの世界観が提示されていることだと
思います。
 序文で示されるサックスの方法論・信念が雄弁に語っているように、
「他者」と、いかにかかわってゆくかという、現代社会でもきわめて
重要な問題系へ、一石を投じる優れた書物だと思います。
 また、優れた書物は、様々な解釈を許容しますし、様々な、
そしてきわめて有意義な問い立てをする。そういう意味でも、
この本は本当に素晴らしい傑作だと思います。
 付け加えておけば、難しく考えなくとも、ノンフィクションとしても、
申し分なく味わえる本だと思います(映画のレインマンなどのように)。

2005
02/13
Sun

人間の可能性を教えてくれる

50.0% (2 / 4)
[No.9] posted by genie88

紹介される患者のライフスタイルが非常に興味深いと同時にそうした障害が別の能力・方法によって不思議と調和されてゆく。これは決して特殊な症状を羅列するのではなく、そこから人間の見えない力を垣間見させてくれる。

2004
03/25
Thu

火星の人類学者

96.3% (26 / 27)
[No.8] posted by kanpou

オリバーサックス博士の著作はどれも興味深く感動的な佳作ばかりですが、本書はその中でも白眉といってよい作品です。

脳を病んだ人々の症例紹介(彼らへの善意と愛のある)という形式は博士の他の著作とも共通しています。しかし他の書はややもすると著者の意図とは離れ、そのような患者への興味本位や憐憫をもって世間で読まれた面があったと思われますが、本書ではそのような障害を持つ彼らを通して人間の存在価値までも考えさせられる内容になっています。

特に表題の“火星の人類学者”と自称する自閉症の女性学者の話は、本当に心に響く内容で、人生に大切な事を考えさせられました。愛情や感情がほとんど欠落しているという彼女は、しかし知性が非常に高く自分をコンピュータに近いと自覚しています。そんな彼女が最後に博士に話す心の叫びは、私たち全ての人間にも共通した問題です。私は読んで泣きました。

サックス博士の本に興味があるタイプの方なら、絶対に読んで損のない一冊です。


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