- [著]佐野 真一
- カテゴリ:
- 文庫 (279頁)
- ISBN:
- 4167340054
- 発売元:
- 文藝春秋 (2003/06)
- 価格:
- ¥ 600 (税込)
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冷めたピザの秘めたる熱さ
「平成おじさん」こと小渕恵三の人生を当人にも多く取材して描いたベテランジャーナリストの書籍である。
周囲から「凡人」と思われていたこの人物の凄み――人心収攬から不気味なまでのしたたかさ――を取り上げる一方で、その限界点も指摘する。
一国の宰相を無闇にヨイショしたり、逆に罵倒するのでもなく、その複雑な内面まで分け入った評伝として興味深く読める。
こんなに面白い人物が総理大臣でよかったのか…
著者は人間そのものを描こうとするノンフィクション作家である。その人物をそのような人間にしたものは何か…合理的には説明できない何かを、膨大な資料や執拗な取材を行うことによって突き止め、その人物を描き出そうとする作家である。だから、この作品も故小渕総理の政治的業績から分析したものではない。あくまで、人間としての小渕恵三を描こうとしている。
著者は小渕自身にもインタビューを何度も行い(このインタビューでの小渕の話が結構笑える)、そしていつものように、その生い立ちにまで遡り、細かい取材を重ねて、彼のパーソナリティーを形作った何かを探し出そうとするのだが、つかみどころがなく、どうもすっきりとはいかない過程がうかがえて非常に面白い。
そんな、著者が最後にたどり着いた「小渕の政治行動は今までもおそらく、永田町の論理いうよりも…旧群馬三区で身につけた大衆の論理によって突き動かされている」という結論は、陣笠にもなれなかったといえそうな父の跡を継ぎ、福田赳夫、中曽根康弘という大物との選挙を戦い抜き、最大派閥(当時)の領袖にまでなっていた人物が「人柄の小渕」「凡人」などと呼ばれていたことに違和感を覚えていた私にとって非常に納得のいくものであった。
この作品を今読むと、そういえばそうだったよなぁという読み方ができるのだが、発売当時(小渕はこの作品の発売前に倒れた)に読んだ時は、総理大臣まで登りつめた政治家の、政治的闘争が殆ど描かれていない「評伝」が、ここまで“滑稽”で面白いのは、日本にとって不幸なことだったのではと感じたものである。
政治家としての小渕恵三は忘れられたのだろうが、この作品で描かれた「人間」としての小渕恵三は、政治家にしておくのが惜しかったくらい?の面白い人物である。
暗い時代
総理大臣は国の最高権力者であるという言い方がある。また、国を導く最高のリーダーシップを発揮すべき存在であるという言い方もある。その地位を、政治家は前者としてとらえ、国民は後者ととらえるなら、そこにはそもそも大きな溝がある。困ったことにかつて我々が首相に戴いた小渕恵三という人物はそのどちらでもなかったようだ。その人物の時代に、ガイドライン法、盗聴法、国旗国歌法が成立したということに、いまさらながら震撼する。
本書にたいした価値を見出すことができなかったので、佐野眞一の本のなかでお勧めのものを記しておきたい。『遠い「山びこ」』(文庫本解説は読むに堪えないが)『巨怪伝』『東電OL殺人事件』。
100兆円を超える、財政資金を投入したおとこ@エコノミスト・ミシュラン
佐野眞一の伝記物、例えば、
『巨怪伝』(正力松太郎)とか、『カリスマ』(中内功)とかを
読むのは、すこしつらいかもしれない(なんせ、分厚いから)
と思っているかたは、
この『凡宰伝』から読み始められたらいいのではないかと思う。
佐野スタイルというべきかどうかはわからないが、
対象とする人物が、若い頃どういう人であったかということや、
その家族が、どのように生きていたのか、
という部分にこだわりをみせる記述の仕方。
いいかえるならば、
伝記で描かれる人物とその周辺にいた人間との、
様々なエピソードを通じて、
対象を浮かび上がらせようという、
佐野眞一流の方法、そのエッセンスが、
この本にはつまっている、と私は思う。
凡人と中傷されながらも、重要な法案を、あっさりと
通した小渕という男が、
実際に凡庸なはずがない。
その当たり前のことを、この本は、丁寧に教えてくれる。
佐野眞一に興味はなくとも、
小渕首相には興味があるという人が、
この本を通過することで、
上で挙げたものを代表とする、数々のぶっとい(骨太の)の
作品を読むことになれば、
さらに奥深き佐野ワールドへと、いざなわれることは間違いない。
今改めて小渕政権を考える
小渕元総理について、政策・政治的にではなく、人物論的に迫った本です。
著者お得意の、生まれ故郷にまで遡った生い立ちを明らかにする手法で、読者にその人間性を納得させていきます。
ただ、それが若干クドイ面もあるのが、一点減点の要因です。
小渕元総理も一人の人間としては傑出した人物であったことがわかりますが、果たしてそれが日本の総理として必要とされる才能だったのかというと、疑問符を付けざるを得ないというのが、読後の思いでした。
