女教皇ヨハンナ (上)

  • [著]ドナ・W.クロス

カテゴリ:
単行本 (318頁)
ISBN:
4794214480
発売元:
草思社 (2005/10)
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評価: 4.0
2008
11/09
Sun

三題噺的歴史小説。

[No.12] posted by 一功堂

この本は小説です。
キリスト教内の伝説について書かれた教養書ではありません。
そそっかしいという自覚のある人はまずそこのところを押さえておかなくてはいけません。
そして、この項は教養書と思って手に取ったあわて者のレヴューであるということをお含みお気を。

まず、主人公である「女教皇ヨハンナ」なる人物ですが、筆者によれば、
・インゲルハイムという町で生まれたこと
・父親がイギリス人であること
・フルダの僧院にいたこと
以外のことはわかっていない上に、ローマ教会が実在そのものを否定しているという曰く謂れのある人らしいです。
そこで、その実在を信じている(望んでいる?)筆者が、上の三つをポイントに、9世紀の政治情勢を下敷きにして、「ヨハンナ伝説」を三題噺的歴史小説に仕上げた、というのが本書というわけです。
この手の人物のこの手の伝説をモチーフに文芸をものすと、一方で「好色な売春婦」のように描かれ、他方では「フェミニスト」のように描かれるというのが典型のような気がするのですが、本書は後者よりに傾斜しているようです(すくなくとも主人公が身を鬻いだという描写はありません。ただ一方で、フェミニストを自認する人々の皆が皆「これぞフェミニズム」と、もろてを上げて礼賛する内容でもない気がします。この辺の呼吸というのは微妙ですが、その微妙なところがかえって現代女性の共感を呼んでいる余地なのかもしれません)。
言い換えれば、プロット自体はそれほど定型から逸れていない、目新しさのないもの(なんとなく「ベルサイユのばら」と「薔薇の名前」と「おしん」を混ぜたような印象を持ってしまいました)といえますが、中世の産婆と魔女の相関性や軍事上ないしは信仰上の周縁地域の状況などの「歴史のディテール」を生活相のレヴェルで描くことで内容に厚みと読み応えを加えています。総じて面白い読み物だとおもいます。
ちなみに、表紙の女性像はヨハンナではありません。本編のヨハンナにとって「大事な」人物ではあるのですが…それも読んでからのお楽しみ。

2007
12/18
Tue

価値観が現代アメリカ

75.0% (3 / 4)
[No.11] posted by shibchin

これって、グインサーガじゃないの。グイサーガは架空の世界なんだから、栗本薫は初めから現実感を希薄にすることを狙っている。それが、9世紀の一応実在すると想定している人物の伝記小説としては、全然良くない。

まず、現代アメリカ人の価値観で善人と悪人にすっぱりと分かれていて、登場人物に奥行きがない。描写もおざなり。中世初期の時代背景の書き込みも不十分で、なんだか分からない。ストーリーもかなり無理がある。シドニーシェルダンでもあるまいに。

中世初期に興味を持っているので、時代の雰囲気を味わうことができるかと思って読んだが、全くの期待はずれだった。でも、下巻も買って来て読んじゃうんだろうなあ。結局、「驚くべき結果はコマーシャルの後」とか言われたら、くだらないと分かっていてもなかなかチャンネル変えられないもんね。

2007
03/09
Fri

世界史にくわしくなくとも

100.0% (1 / 1)
[No.10] posted by かるうあ

私は世界史はあまり・・・なのですが、スピード感ある文章についつい一気に読み続けてしまいました。歴史的な史実を知らなくとも十分楽しめます。女性は男性より劣るとされ勉学も許されなかった時代の中、知識欲あふれ、いわれない差別を良しとしないヨハンナは周囲から奇異な存在とされます。しかし、ありたい自分を求め苦難に正面から立ち向かっていく姿は清々しく勇気を与えてくれます。DV,いわれない差別、権力闘争と金銭取引、貧困・・・・ヨハンナの生き抜いた時代は現代も抱えている社会的問題がより日常的なものとして立ちはだかっていた時代です。ヨハンナの存在の真偽はいまだ不明とのことですが、一人の女性、人間としてそれらの問題に立ち向かっていく姿と、清らかなロマンスがさわやかな読後感を与えてくれる作品です。

2007
03/05
Mon

遥かはるかに昔の・・・・・

50.0% (1 / 2)
[No.9] posted by Shadow Gallery Resident

ある高校用世界史教科書によると、ヨーロッパにおける「中世」とは5世紀から15世紀までを指すとの事だが・・・・。要は、単に中世と言っても1000年もの開きがあるのだ。その初めと終わりではずいぶんと違いがあって当然で、この本の主人公ヨハンナが生きた9世紀という時代も、私たちの大雑把な中世イメージだけでは理解しきれないほどの深く暗い闇と絶望的な迷信に沈んだ、謎だらけの時代だったのだという事がよくわかる。そもそも、まだイタリア語やフランス語さえ生まれていなかったという事実には、驚愕を通り越して衝撃さえ覚えるほどだ。それほどに遠い遠い昔々の時代の話である。そして、主人公のヨハンナが実在の人物であったのかどうか、という最大の謎すら解かれていない。きっとこの先も永遠に説かれないままなのだろう。
1000年以上も時をさかのぼってしまえば、ヨハンナとその同時代を生きていた人々の日常生活や人生感や思考回路や常識といったものが、現代を生きる私たちのそれとは大きくかけ離れていても不思議はなく、むしろ、彼らの全然違う価値観や倫理観に違和感や戸惑いを覚えるというのが自然な事だとは思うのだが、そこは21世紀に生きる作者の創作の限界と言うべきか、なんとなく登場人物の考え方や行動パターンが現代っぽいのがおもしろい。9世紀の人たちをタイムマシーンに乗せて現代に連れてきて、この小説を読んでもらったら一体どのような感想を持つのだろう。
今でもバチカンは、教皇ヨハネスの存在そのものを全く認めていないという。深く暗い闇、永遠に解ける事のない謎、歴史のひだの奥に葬られた存在、そして今この瞬間にも世界中から慈愛と救いを求められ続けるローマカトリックと、絢爛豪華にして荘厳たるサン・ピエトロ寺院・・・。
人は宗教にとってどういう存在なのだろう。そして、宗教は人にとってどういう存在であるべきなのだろう。教皇ヨハネス。その存在が実際であれ架空であれ、21世紀の私たちは、垣間見る事もできない遥かはるかに遠い時代に思いをはせずにはいられない。

2006
12/25
Mon

私が求めて止まなかった物語

100.0% (4 / 4)
[No.8] posted by アンビシア・マグニフィス

私は以前より女教皇ヨハンナ伝説に強い関心を抱いていました。そこで、この作品の発売を知ってすぐに書店で購入、一気に最後まで読み終えました。これほど劇的で共感しやすい歴史小説には出会ったことがない。そして私に勇気を与えてくれる歴史小説に出会えて、心が震えました。この作品は、ヴァチカンのタブー視により歴史の闇に葬られている伝説上の女教皇ヨハンナの生涯を、臨場感溢れる文章で驚くほど劇的に描いています。(作中のヨハンナ像は、一般に知られているものとは、いい意味で全く違います。)また、ヨハンナ自身の物語を、9世紀のヨーロッパの時代状況、文化、価値観と密接に絡めて語っています。各登場人物の心理描写も巧みです。だから当時の空気を感じつつ、一瞬たりとも退屈せずに読むことが出来ます。作品に女性の視点がふんだんに取り入れられている、この点も非常に印象的です。注目すべき点は他にもあります。作中のヨハンナは単なる「強い女」ではない。むしろ、強さも弱さも持ち合わせた人間味溢れる女性です。彼女は知的好奇心に満ちた類まれな才媛、でも決して驕ることはない。そして絶えず傷つき悩み、他者(特に虐げられた無力な人々)の痛みをよく理解する。そして、当時の女性ゆえに強いられる過酷な運命にも負けず己の信念に忠実に生き、壮絶な最期を遂げる。読んでいる間も、読み終えた後も涙が止まりませんでした。ヨハンナの性格、価値観、得意なもの、不得意なもの、全てが私自身と重なり合うため、尚更、共感しやすかったのかもしれません。……上巻で語られるのは、ヨハンナの誕生、幼少期、数少ない良き理解者ゲロルトとの出会い、自らの人生を大きく変える決断です。上巻を読んで「面白い!」と思った人は、すぐさま下巻に突入したくなること間違いなしです。女教皇ヨハンナ伝説に関心のある人、悩み傷つきながらも信念を貫く女性の物語を求める人にお勧めです。

2006
09/10
Sun

暗黒の中世に夢と愛をもって道を切り開いた女性の物語

100.0% (5 / 5)
[No.7] posted by gehararigo

実在したかどうか定説の無い女教皇をテーマとした前例の無い時代設置で展開するお話で一気に読ませます。人間への愛を求める女性が、運命の定めによりカソリックの最高位である法王にまで上り詰めるという物語です。時は、暗愚の支配する中世。知識欲に燃えるヨハンナにとってはキリスト教理しか勉学すべきものはありませんでした。しかも、女は不浄のものとされ、その道さえ閉ざされていたのです。多くの史実に基づき、物語にまとめ上げた著者の力量は見事。そのようなメインテーマを、ほのかな愛情や、異教を信じていた母への追慕といった横糸を紡いで、良質かつ知的なエンターテインメントに仕上げています。 これかからの秋の夜長に、上質のタペストリーを鑑賞するようにお楽しみ下さい。 著者の中世を題材とした続編が今から楽しみです。

2006
07/08
Sat

流行の『ダビンチコード』の次はコレ!

66.7% (4 / 6)
[No.6] posted by 万語

『ダビンチコード』を映画で見たことを友人に話したら、この本を勧められました。これもキリスト教のタブーに触れた内容です。今、話題のテーマではないでしょうか。舞台となった時代にいかに女性の地位が低かったか、もよく分かります。

2005
12/09
Fri

ヒロインの視点が近代的すぎる

55.0% (11 / 20)
[No.5] posted by dragee

身分差別、女性差別があたりまえだった時代を舞台にしながら
ヒロインとその恋人の考え方があまりにリベラルで近代的すぎる。
近代・現代の常識は中世の常識とは異なるので違和感を感じた。
翻訳については
衣装などの専門用語がカタカナに置き換えられているだけであるため
イメージが全くわかない。
注釈をつけるぐらいの労はいとわないで欲しかった。

2005
10/29
Sat

女性として生きることの悲しさに泣かされました。

76.9% (10 / 13)
[No.4] posted by romanticslag

「伝説があるところ、突きつめれば必ず歴史がある」
著者のあとがきに引用されたこの言葉を、著者自身はヨハンナが実在したことの裏づけに使ったようですが、私は別の意味にとりました。
ヨハンナはもっと学びたいと願っただけなのに、父親にはそれは罪であると非難され、一番信頼していた母親にも強く反対されてしまいます。
そんな本人の意思と数奇な運命との絡み合いで、男として生きることを選んだヨハンナの最大の悲劇は、愛する人と女として生きたいという願いを最後まで抑えられなかったことでしょう。
最後まで男として生きたなら、避けられたであろう悲劇―――学びたいという願いと、女としての普通の望みとを持った女が迎えなければならなかった運命の一つの形―――
そのあまりにも生き生きとした描写に、途中からは真実であるかどうかなんてどうでもよくなりました。
このヨハンナはたとえ伝説のヨハンナと違おうとも、その時代に生きた女たち、そして男たちの紛れもない真実です。
伝説を突きつめれば辿りつく歴史―――それは、その時代に虐げられた人たちの歴史です。
この本は、今まで私が読んだ歴史小説の中でも一番優れたものだと思っています。一人の人間を描いただけの小説の枠を超え、その時代を如実に切り取ったものです。これは絶対に一読に値するものだと確信しています。

2005
10/27
Thu

才女の野心と戦い

91.7% (11 / 12)
[No.3] posted by ディレッタント

タロットカードの「女教皇」のモデルになったともされる、カトリック教会が長年に渡り否定しつつも今なお世界中で知られている女教皇ヨハンナの伝説を伝記風に描いた作品です。
舞台は絶対的な男性優位で、女性にはほとんど教育の機会が与えられなかった時代のヨーロッパ。
この前編では、類い希なる知性と好奇心を持った少女ヨハンナが、女性が知識を得ようとすることを罪悪とみなす社会で、僅かな理解者の助けを得ながら必死で勉学に打ち込みます。しかし次第にそれも限界になり、もはや挫折するしかない状況に追い込まれた所で、ヨハンナはその後の人生を大きく変えることになる事件に遭います。

この小説は女教皇の伝説を題材にした作品であると同時に、自分の才能が世界でどれだけ通用するか挑戦した、一人の才能溢れる女性の物語であるとも言えるでしょう。


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