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キャバレー・ソングはポップ・ミュージックの中でもっとも伝統がある形式のひとつだが、同時に一筋縄ではいかない面をもっている。シンガーは自分の感情を直接的に表現してはならないが、まったくのウソを歌ってもいけないのだ。エルヴィス・コステロは長年このようなスタイルと戯れ、成功を収めてきたが、本作のように一貫してストレートな歌を聴かせることはめずらしい。
コステロによれば、本作の楽曲群は2002年~03年の冬にほぼ完全なかたちで一気に思い浮かんだものだという。この言葉を裏付けるかのように、これらの曲は気まぐれに姿を変える。コステロの潜在意識がむき出しになっているのだろう(彼が愛してやまない数々のポップ・スタンダードのメロディーが、ところどころに一瞬だけ引用されるさまは、ほとんど幽霊の出没のようだ)。コステロといえば、凝った言葉遊びや挑戦的な象徴主義を盛りこんだ歌詞が自慢のアーティストと長いあいだ見なされてきただけに、今回ロマンティックな想いをこれほどはっきりと打ち出してきたことに驚きを禁じえない。
実生活における心境の変化を反映しているという本作には(コステロの言葉によると、ビタースウィートな「You Left Me in the Dark」に始まり、希望にあふれた「I'm in the Mood Again」で終わるという構成は偶然ではないらしい)、ロマンティックな会話が成立することの難しさという隠れたテーマも繰り返し現れる。ドラマティックな「Someone Took the Words Away」や美しい「When it Sings」がその例だ。一方、ブロドスキー・カルテットと再度組んだ新古典主義的な「Still」はアルバム中もっとも伝統的で洗練されたチューンといえるだろう。
バックを飾るのは、スティーヴ・ナイーヴの控えめながら印象的なピアノ(今回、コステロが作曲の際に用いた楽器もピアノ。そう、本作は彼のキャリア中もっともギターから遠ざかったアルバムなのだ)、ピーター・アースキンのドラム、マーク・フォーマネクのダブル・ベース。これ以外には、大げさすぎないオーケストラ・サウンドが装飾的に使われているだけ。全体のムードは、明らかに秋を感じさせるものだ。声を優しく震わせて歌うコステロ独特の歌唱法が、かつてなくクローズ・アップされている。綱渡りのように繰り出されていく演奏がスリリングであり、大胆なコンセプトを裏切らない出来ばえといえそうだ。(Jerry McCulley, Amazon.com)
日本盤なのに、DVDに字幕も翻訳もないことが残念
100.0% (3 / 3)
[No.10] posted by ペニーレイン
コステロがコートに両手を突っ込んで歩いている黒のジャケットのイメージどおり、秋から冬の夜に聞くのにふさわしい、クラシカルなキャバレー音楽というか、ジャズ風のメロウネスに満ちた、バカラック風のロマンティックなラヴ・バラード集。
この日本盤には、ボーナストラック3曲(の権利)つき。
トラック12は、ブラジル音楽風。トラック13は、少しインプロヴィゼーション(即興演奏)も感じさせる完全なジャズ・ナンバー、メジャー・コード。両方とも、US正規盤本編と曲調がちがうので、ボーナストラックに回されたのでしょう。でも、いわゆる〈捨て曲〉ではいっさいなく、聴く価値はあります。
あともう一曲のボーナストラックは、DVDに収録されている「ノース」のスタジオ録音ヴァージョン。曲調は『ノース』本編の曲と変わりません。CDに封入のコードをコステロの公式HPで入力し、「ノース」の音楽ファイルをダウンロードするかたちになります。つまり、インターネット上配信。このファイルはウィンドウズ・メディアにしか対応していないので、iTunes、iPodでは聴けません。
問題はDVD。3曲約10分。コステロが各曲をピアノ弾き語りするのですが、曲を弾き始めるまえに何か話しています。ですが、このとき英語字幕も日本語字幕も出ないだけではなく、この箇所の英語の聴き取り文も日本語訳もブックレットに掲載されていないのです。日本盤なのに、これはいただけません。現在、お店に中古品が多く、そして安く出回ることになった要因であると思われます。
CDの内容について言うと、名盤。でも、DVDに字幕も翻訳もないことに対して、中立的な評価、星三つです。
冬の夜、暖炉の前で・・・
100.0% (1 / 1)
[No.9] posted by sow
静かな冬の夜、暖炉に火をくべて、ミルクティーでも飲みながら、
ゆっくりと味わいたい。
そんなアルバムだ。
ここには、ヒット狙いのあざといメロディやアレンジ、歌詞などは
どこを探してもかけらもない。
けれど、ていねいに編まれたタペストリーのようにハンドメイドの
温もりにあふれたラヴソングと歌に寄り添うような過不足のないアレンジ、
朴訥としていながら誠意あふれるコステロの歌唱には、
彼の祖国に古くから存在するクラフトマンシップ(職人気質)が
大いに感じられる。
ベスト盤を除けば初めて購入したコステロのアルバムなので
過去の作品との比較はできないが、派手さはなくても
良質な作品を受け入れてくれるファンを数多く持つ彼は
幸せなミュージシャンだ。
個人的なお気に入りを挙げれば、
センチメンタルなメロディが心の琴線にやさしくふれるような07. と、
アレンジにやや動きを感じさせる 12. だろうか。
一点もののアンティークのように大切にしたくなるこのアルバムは、
「大人向けの良質なポップミュージック」を志向する吉里爽にすれば、
ひとつの規範としてリスペクトしたい逸品である。
引き寄せあう魂
100.0% (2 / 2)
[No.8] posted by voodootalk
2003年リリース。リー・コニッツのアルト・サックス、ビーター・アースキンのドラム、ストリングスで始まる1曲目。ピアノをバックにとつとつと歌うさまはダイアナ・クラールの『影響』を感じる。
コステロほど自我が強い人でも他の人に影響されることがあるのだろうか?とも思うが、この『North』に漂うジャージィな雰囲気は間違いなくダイアナ・クラールの世界に近いものだ。この雰囲気の中で急にダイアナ・クラールが現れてデュエットを聴かせても全く違和感がないだろう。そういうアルバムになっている。それは過去のコステロ世界とはまったくといっていいほど異質で静かな静かな世界だ。
一方、ダイアナ・クラールが歌うコステロの初期の曲、たとえば『Almost Blue』を聴くと二つの魂が引き寄せあっているのを感じたりする。
ジャケット裏のコステロはどしゃ降り雨でぐしょぐしょで何となくブルース・ウィリスみたいである。全面に流れるスティーヴ・ナイーヴの控えめなピアノが冴えている。1『・・・in the Dark』から希望に満ちた11『・・・in the mood again』に向かうベクトルは引き寄せあった魂の幸せを示しているように感じられる。コステロのターニング・ポイントが本作だ。
攻撃的ではない、やさしいコステロ♪
100.0% (3 / 3)
[No.7] posted by belleking
まず、このアルバムを聴いた時に感じたこと。“心が鎮まり穏やかな気持ちになる”です。
いい意味で、なにげに構えなくて聴けるというか。
昔からのファンの方の中には“物足りない”
と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、
私はどっちの側面も好きですね。
『ノッティングヒルの恋人』の『She』で、彼の声の虜になった方には
その流れに近いものを感じるので、ぜひ聴いてみてください。
NORTH、いいっす
90.0% (9 / 10)
[No.6] posted by 大五郎
かなりスローなテンポの曲ばかりのポップス・アルバムです(ジャズっぽいという人もいますが、あまりそう感じませんでした)。メロディもアレンジも地味極まりなく、正直なところ曲に慣れるまではかなりの忍耐が要りました。でも、そこを通り過ぎた今では手放せない傑作と思っています。
アルバムのイメージは、無理に言うなら「ジュリエット・レターズ」や「ペインテッド・フロム・メモリー」に近いかも。初期からのコステロ・ファンのイメージからは最も遠い穏やかな作品で、そのためかどうも好き嫌いが分かれるようです。でも、"SHE", "Smile"以降のファンには十分に強くアピールするのではないでしょうか??
「NORTH」といえど・・
100.0% (3 / 3)
[No.5]
まず。私はラジオで「STILL」を聴いた瞬間、とても心が落ち着きました。そして即CD到着後、全曲ききました。
どの曲を通してもアルバム名が「NORTH」といえど、コステロのあの独特な暖かいメロディーが前編に含まれているアルバムです。これからの季節に聴くにはピッタリです。
大人のバラード
75.0% (3 / 4)
[No.4]
キング・オブ・アメリカ、ブラッド&チョコレートの好きな私にとって最近のコステロのアルバムには、トゲがなくり丸くなってしまった感がぬぐえず、どこかものたりませんでした。このアルバムもその例外ではなく、かつて怒れる若者といわれた面影はすっかりなくなり、いきつく先はここだったのかなあと複雑な思いに浸りながらアルバムを聞いていました。だけどそこはやっぱりコステロなのか、聞けば聞くほど深みがでてくるあのメロディーは健在で、今では大人のコステロもなかなかのもんだなあと聞くたびごとに思うようになりました。秋の夜長に聞き応えのある大人のバラード「ノース」なかなかのもんです。
晩秋に聴きたい
50.0% (1 / 2)
[No.3] posted by ricky78
これまでの彼の過去の作品を引き合いに出すとすれば、バカラックとの共演盤「Painted from memory」やシングル盤「スマイル」、心温まるバラードが多数収録された「All this useless beauty」あたりを思わせるアルバムです。
今回のアルバムはこれまでのジャズ路線のアルバムとは内容が微妙に異なっています。流麗なオーケストラをフューチャーした楽曲やスイングするジャジーな曲は意外と少なく、ピアノを中心とした内省的なバラードが多めに収録されています。余分なものを削ぎ落としたシンプルなアレンジに、コステロの円熟の境地に達したと言っても過言ではない深みを湛えたヴォーカルが聴き手を確実に陶酔の世界と誘う逸品です。ただ甘いだけのラヴ・ソング集になっていないのはさすが。これからの秋~冬シーズンにかけてじっくりと聴きたいですね。
尚、ボーナストラック2曲に関してですが、本編の内容とは若干異なるラテン色漂うユーモラスなトラックと本編以上にスインギーなジャズ
が聴けるとても優れた2曲に仕上がっています。是非、国内盤でのご購入をオススメします。
北風が身にしみる
100.0% (1 / 1)
[No.2] posted by 瑠璃坊
若き日のパンク野郎のコステロと比べたら、時は流れたんだなと思わずにいられない。歳相応の音楽表現といえばそれまでだが、しかし結局、みんなここにたどりつくのか。ジョンもそうだった。スティングだって。
誠実というか、質実というか、ピアノをベースにしたコステロの鼻歌が、けだるいメロディーを奏でる。聞く人によってはつまらない退屈な歌かもしれない。しかし静かに語りかけるコステロの歌声は、永遠に歌いつづけられる賛美歌にも似て、深く心の中に、澱のように沈殿していく。まさにこれこそがスタンダードだ。
DVDを見て、ピアノをひきながら鼻歌をうたい、余生をおくるおやじになりたいと思ったのは私だけだろうか。
愛と喪失と
75.0% (3 / 4)
[No.1] posted by narizo-bossa
コステロの新しいアルバム「ノース」を2回通して聴いた。低く、穏やかさの中に激しい情熱を秘めた歌声に包まれる至福 ― どうしてこんなにやさしいのだろう。静かな雨が降り、波が通り過ぎていく感覚に襲われる。■このアルバムは彼の音楽がいつもそうであるように、全ての人に開かれた音楽であると同時に、とてもパーソナルなラヴ・アルバムなんだろうと思う。(ダイアナ・クラールと彼は婚約した) でも、アルバムのトーンは「ハッピー」というものではない。いくつかの喪失を経てたどり着いた、寒い冬の鉛色の雲間から差す陽光のような、他愛もないかけがえのない日々が見える■1)の「ユー・レフト・ミー~」が好きだ。「自然も逆らおうとしないよ/瞳は青く/空は灰色/何をしても君を引き止めることはできなくて/今日が雨でほんとによかった」と歌われる、失意の歌。雨の日、一人の部屋で煙草をふかすような曲だなあ。ホルンの音が染み入ります。■6)の「ホエン・イット・シングス」は、「あなたの語りかける言葉は/どれも素敵な音楽」と歌う告白の歌(愛の)。静かな心の傾きというか、決心みたいなものを感じさせるピアノがすばらしい。■目を閉じると、雨の中をコートに包まりながら歩く2人が見える。 「一刻も早くキスしたい/恥ずかしい言葉を囁きたい/でもきっとあなたは言うのさ/だめよ、静かにじっとしてなさい」〈7:スティルより〉 ― 愛と喪失と。